この聖天堂を飾る、おびただしい彫り物群の中で、彫り物師の名前が解る作品は、奥殿向拝の海老虹梁上の鳳凰と、その周りの瑞運の彫刻のみでした。 そういった点で、この鳳凰の彫刻は大変貴重な彫刻だといえます。 写真は南側の鳳凰ですが、江戸彫りの小沢家初代・小沢五右衛門常信の作で、口を開けた「あ」形を表し、もう一つの北側にある鳳凰は口を閉じた「うん」形を表しています。 つまり、南北で一対となっているのです。 この南側の鳳凰は、彫りが細かく、鋭角的で精悍な感じを与える作風であり、いわば、後の彫刻技法の新しい流れになっていった作風だとも考えられます。 この小沢五右衛門常信の孫弟子からは、長野の諏訪大社や善光寺、静岡浅間神社などの彫刻で有名な、立川流始祖・立川和四郎などが続いています。
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小沢五右衛門常信銘の鳳凰
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唐破風真下の太鼓羽目彫刻は、長さ・140cm、幅・45cm、厚さ・18cmの肉厚の透かし彫りで、題材は「三聖吸酸図」といいます。 中央に瓶を配し、孔子〔=儒教〕・ 釈迦〔=仏教〕・ 老子〔=道教〕の三聖人が瓶に入った酢を舐めて、すっぱいと顔をしかめている様子を描いたもので、宗教(=教え)が異なっていても、酢がすっぱいという真理は一つだ、という「三教一致」を風刺した中国の故事です。 なお、この三聖人については、〔蘇東坡=儒教〕・仏印禅師〔=仏教〕・黄山谷〔=道教〕などと表す例もあります。 太鼓羽目彫刻の下には、「牡丹に唐草」の彫刻、両脇には、金箔押しの「双龍」、その下には各面に3枚の「飛龍」の羽目彫刻が取り付けられ、軒下を豪華に飾っています。 (文・写真:阿部修治)
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奥殿南面・唐破風下の太鼓羽目彫刻
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著者紹介:熊谷市在住。上武郷土史研究会主宰、阿うんの会・講師。
全国歴史研究会、埼玉県郷土文化会、木曽義仲史学会、他各種会員。
主な著書:『妻沼聖天山』、『甦る「聖天山本殿」と上州彫物師たちの足跡』(以上さきたま出版会)、『寺社の装飾彫刻・関東編上』(日貿出版社)、
『斎藤氏と聖天堂』(熊谷市立熊谷図書館)、『歴史と文化の町・“めぬま”』(阿うんの会)
埼北ちっちゃな旅「深谷・妻沼版」
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