「国宝・妻沼聖天堂の魅力」シリーズ10

 

大羽目彫刻

 奥殿壁面中ほどを豪華に飾る大羽目彫刻は、南・西・北の三面共に、「七福神」の遊ぶ様子を主な題材として、南面から西面、西面から北面へと全て繋がっています。
 さらに背景の雲、流水、植物などで四季の移り変わりを表現すると共に、あたかも時空がつながった一連の絵巻物を見るかのような、壮大な風景が表されています。
 南壁では、右側に「寿老人・鹿に鶴の餌飼い・唐子一人」、左側に「梅竹に長春・亀甲亀、唐子一人」、の2枚が並んでいます。
 それぞれが別の作品に見えますが、よく見ると背景の雲、流水などが繋がっていることから、2枚で1組の大きな画面を構成していることが解ります。

奥殿-南面・大羽目彫刻
奥殿-南面・大羽目彫刻

 健康・長寿の神とされる寿老人が、梅の花が咲き乱れる谷川の傍で、のんびりと鶴に餌をやり、傍には亀で遊ぶ子供や空を舞う鶴、寿老人を囲む子供や鹿が描かれており、めでたさと平和な世の様子が表現され、まさに庶民の願いが込められた作品であることが解ります。 

 

奥殿ー南壁・緑下腰羽目彫刻

 高覧の下、見物者の腰の高さに嵌め込まれた腰羽目彫刻の題材は、南・西・北の三面共に、「唐子遊び」が共通の題材となっています。
 個々の題材は、右側が「竹馬遊び三人と桜に蘇鉄」、中央が「小間取遊び七人に梅」、左側が「鶏合三人に竹・牡丹」となっていて、子供たちの遊びや服装、周りの植物などから、春の季節を表現すると同時に、子供たちが遊びに興じている姿から、平和な世の中を表現した3枚となっています。
 因みに、写真の題材は、奥殿南側にある3枚のうちの中央の彫刻で、「小間取遊び」の名が付き、日本の「手つなぎ遊び」の元祖ともいわれています。背景にある梅の花で春が表現されています。

奥殿-南壁・縁下腰羽目彫刻
奥殿-南壁・縁下腰羽目彫刻

 無心に遊ぶ唐子たちの表情の可愛さやしぐさ、着ている服装に施された「置上彩色」といわれる塗装方法などの出来栄えに、修復に当った職人さんから、「まるで人形師が入った仕事ぶり」とまでいわせたもので、彫刻の人物に「置上彩色」を使った例は、全国でも類例がないとまで驚かれている見事なものです。(文・写真:阿部修治)

 

著者紹介:熊谷市在住。上武郷土史研究会主宰、阿うんの会・講師。
     全国歴史研究会、埼玉県郷土文化会、木曽義仲史学会、他各種会員。
主な著書:『妻沼聖天山』、『甦る「聖天山本殿」と上州彫物師たちの足跡』(以上さきたま出版会)、『寺社の装飾彫刻・関東編上』(日貿出版社)、
     『斎藤氏と聖天堂』(熊谷市立熊谷図書館)、『歴史と文化の町・“めぬま”』(阿うんの会)

 

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