「国宝・妻沼聖天堂の魅力」シリーズ6

 

魅力満載の聖天山奥殿

 本稿からは聖天山本殿の特徴が凝縮された、奥殿彫刻についてご紹介しましょう。
 聖天山本殿は「建築自体を彫刻化している」とか、「日光東照宮をも凌ぐ」とさえいわれ、「彫刻と彩色の美術・工芸品」とまで言われるほどに、壮麗な奥殿の威容は荘厳性に満ち、思わず魅入られてしまうほど、建物・彫刻・彩色が見事に調和しているのです。
 全国の社寺建築の中でも特に他に類例がないといわれる特徴をご紹介しましょう。

 

色漆仕上げの軒下・丸彫り彫刻

 奥殿軒廻りの木鼻や、尾垂木などには、動物や霊獣の丸彫り彫刻がびっしりと取り付けられています。聖天堂が他の建造物と違うのは、この丸彫り彫刻に色漆や金箔が使われていることです。
 こうすることで、単に絵具を使った彩色とは異なり、大変艶のある仕上がりとなることです。
 日光をはじめとして他の寺社建築物では、金箔仕上げか、岩絵具による彩色仕上げが通例だということから、専門家や工事関係者からは、丸彫り彫刻の色漆仕上げは全国でも類例がなく、まさに「妻沼の聖天堂だけだ」、といわれる手の込んだ、珍しい仕上げになっています。

series_06_photo_01
色漆仕上げの軒下・丸彫り彫刻

 

板戸を飾る「鷲に猿」の肉彫り彫刻

 奥殿南側の木階の上にある「鷲に猿」の板戸彫刻は、その出来栄えの素晴しさに、左甚五郎作とまで伝えられている「鷲に猿」の肉彫り彫刻です。
 2枚の板戸のうち、右側は谷川に落ちた猿を、鷲が助けている場面を表わすと伝えられています。
鷲と猿の題材は、江戸時代から絵画や彫刻に用いられて、猿は煩悩にまとわりつかれた人間に例えられ、鷲は神様や仏様に例えられています。
 つまり、聖天堂に彫られたものから、「大聖歓喜天」が民衆を助けるという、慈悲の心を表現すると共に、得意なことでも慢心すると失敗する、との意味が表されているものと思われます。
(文・写真:阿部修治)

series_06_photo_02
「鷲に猿」の肉彫り彫刻

 

著者紹介:熊谷市在住。上武郷土史研究会主宰、阿うんの会・講師。
     全国歴史研究会、埼玉県郷土文化会、木曽義仲史学会、他各種会員。
主な著書:『妻沼聖天山』、『甦る「聖天山本殿」と上州彫物師たちの足跡』(以上さきたま出版会)、『寺社の装飾彫刻・関東編上』(日貿出版社)、
     『斎藤氏と聖天堂』(熊谷市立熊谷図書館)、『歴史と文化の町・“めぬま”』(阿うんの会)

 

埼北ちっちゃな旅「深谷・妻沼版」
おでかけMAPはこちらから

■ バックナンバー

おせんべいやさん本舗 煎遊 topページに戻る